はじめに

新規の取引先に営業メールを送っても、返信がほとんど来ない経験はないでしょうか。件名や文面を変えても手応えが無く、海外で動画を使った営業がうまくいっていると聞いても、相手ごとに動画を撮るのは現実的でないと感じている方も多いはずです。

本記事では、営業メールに相手ごとの動画を入れる「パーソナライズ動画」について、海外5社の事例の数字、1本の動画をAIで相手ごとに変える4つの工程、日本で使う前に確かめる条件、まず20社で試す手順を解説します。スマートエイトは生成AI研修と開発受託の実績があり、自社の営業でもAIで相手の会社ごとに文面を作ってきました。

結論として、海外の事例では営業メールの返信率が19%から216%上がり、商談の数も平均50%増から2倍に増えています。返信を増やしているのは動画そのものより、相手の会社のサイトや課題を画面に出して「この会社のために作った」と分かる形にした点だと、スマートエイトは見ています。今はAIが1本の動画から相手ごとの版を作れるため、まず20社で通常のメールと比べる所から始められます。

本記事の海外の数字は、2026年11月5日時点で各ツール会社が公式サイトに公開している顧客事例の値です。ツールの料金も同じ日の公式の料金ページの値で、米ドルの税別表示です。

パーソナライズ動画で営業の数字はどう変わったか|海外5社の事例

パーソナライズ動画とは、相手の名前、会社、サイト、課題を1本ずつ反映した営業用の動画です。海外では複数のツール会社が、顧客の営業チームで出た結果を事例として公開しています。5社の概要は次の表のとおりで、ここでは返信率と商談数に分けて見ます。

会社

業種

動画の形

結果

掲載元と年

Intercom

チャットツール

相手のサイトに自社の画面を重ねた画像と、顔と声の録画。1本最短2分

返信率19%増

Loom・2022年

Terminus

マーケティングツール

最初の接触に相手に合わせた動画

開封率40%増、クリック率37%増、返信率216%増

Vidyard・2017年

ReviewTrackers

口コミ管理ツール

相手に合わせた動画を、9人で60日に120本

返信率92%増、商談は9件から19件

Vidyard・2021年

Content Marketing Media

営業メールの代行

Google検索の結果を背景に差し込み

顧客企業の商談獲得が平均50%増

Sendspark

Capium

会計ソフト

会計事務所の担当者ごとの動画とメールを12か月以上

継続収益60万ポンド超、契約までの期間が約半分

Sixty Seconds

返信率はどれだけ上がったのか

チャットツールのIntercomの営業は、相手企業のサイトに自社の画面を重ねた画像と、担当者の顔と声の録画を組み合わせた動画を送りました。1本を最短2分で作り、面識のない相手への営業メールの返信率は19%上がりました。

マーケティングツールのTerminusは、最初の接触に相手に合わせた動画を使い、従来のメールと比べて開封率が40%、クリック率が37%、返信率が216%高くなりました。返信率は3倍超です。

口コミ管理ツールのReviewTrackersは、9人の営業チームが60日間で120本の動画を送り、返信率が92%上がりました。研修会社と組んだ60日間の実験で、月ごとに数字を比べた取り組みです。

商談の数はどう変わったのか

ReviewTrackersでは、新しい商談の数が1か月目の9件から2か月目は19件に増えました。動画を送った60日間の合計は28件です。

面識のない相手への営業メールを代行するContent Marketing Mediaは、相手企業のGoogle検索の結果などを動画の背景に差し込み、検索で見つかりにくい状態をその場で見せました。動画を取り入れた顧客企業では、商談の獲得数が平均で50%増えています。

英国の会計ソフトCapiumは、会計事務所の担当者一人ひとりに合わせた動画とメールを12か月以上送り続け、60万ポンド超の新しい継続収益を得ました。最初の接触から契約までの期間も約半分になっています。

数字をどう読めばよいのか

比べる前の返信率や商談数は書かれていないため、「92%増」は元が1%なら2%弱、元が10%なら19%になった変化です。公開の年が2017年や2021年と古い事例も含みます。

それでも、営業チーム全体で期間を決めて試し、月ごとの商談数で比べたReviewTrackersの型は、そのまま自社で使えます。海外の数字を信じるかどうかを議論するより、同じ型で自社の数字を出す方が早く、その手順は5章で説明します。

なぜ動画で返信が増えるのか|名前の読み上げではなく「相手の画面」を見せる

動画を付ければ返信が増えるわけではありません。やり方まで公開されているIntercomとContent Marketing Mediaは、どちらも相手の会社のサイトや検索結果を画面に出し、「この会社を調べて作った」と一目で分かる形にしました。効いているのは動画そのものより、この「相手の画面」だとスマートエイトは見ています。

名前を呼ぶだけでは足りないのか

Content Marketing Mediaは、相手企業のGoogle検索の結果を動画の背景に出し、検索で見つかりにくい状態をその場で見せました。Intercomは、相手のサイトの上に自社のチャット画面を重ねた画像から動画を始めています。どちらも、相手が毎日見ている自分の会社の画面に、提案の中身を乗せています。

名前の呼びかけは入口にすぎません。相手が返信するのは、自分の会社の課題が画面に映り、次に何をすればよいかが分かったときです。動画に入れる相手固有の要素は、「サイトか検索結果」「そこから読み取れる課題」「その課題への提案」の3つに絞ると作りやすくなります。

テンプレートの一斉送信と何が違うのか

スマートエイトは、問い合わせフォームからの営業を自社で回していた時期があります。業界ごとに用意した文面よりも、相手の会社の事業内容を読んで1社ずつ変えた文面の方が、反応が上がりました。代表の小坂井も前職で、同じ文面のメールを量産して返信率を落とした経験があります。

同じ業界でも、売っている物と困っている所は会社ごとに違います。動画でも同じで、1本の共通の動画に名前だけ差し込んだ物は、相手にはテンプレートに見えます。相手の画面を映す工程を省くと、動画を作る手間だけが増え、事例の2社の形にもなりません。

どんな相手に送ると効くのか

効くのは、サイトや求人ページ、商品ページから課題が読み取れる会社です。採用ページに同じ職種の募集が半年続いている、商品ページの更新が止まっている、扱っている商品の名前で検索しても自社が1ページ目に出ない、といった状態は、画面に出すだけで提案の前提になります。

逆に、サイトから何も読み取れない相手には、動画を送っても映す物がありません。その場合は動画ではなく、相手に1つ質問する短いメールから始める方が向いています。送る相手を選ぶ基準は「画面に出せる課題があるか」です。送ってよい相手かどうかは、4章の法律の条件で確かめます。

AIで1本の動画を相手ごとに変える仕組み|4つの工程

一人ずつ撮らなくても、相手ごとの動画は作れます。共通の動画を1本撮り、相手の名前、背景、動画を載せるページの文字の3か所をAIが差し替える仕組みで、海外のツールは100社分でも同じ手順で作ります。

4つの工程は何か

工程は4つです。

  • 工程1 営業リストを作る。会社名、担当者名、サイトのURL、サイトから読み取った課題を1社1行で持つ
  • 工程2 共通の動画を1本撮る。30〜60秒で自社の提案を話し、冒頭で相手の名前を呼ぶ所だけ空けておく
  • 工程3 AIで相手ごとに差し替える。名前の呼びかけ、背景のサイト、動画を載せるページの文字をリストから入れる
  • 工程4 メールで配信する。相手の名前入りの画像を置き、押すと専用のページで動画が再生され、その先に商談の予約を置く
営業リストから共通の動画を1本撮り、海外の動画ツールが名前の呼びかけ・背景のサイト・専用のページの文字を相手ごとに差し替えてメールで配信する4つの工程の図

撮るのは工程2の1本だけです。工程1と4は営業の手順として既にある会社が多く、新しく増えるのは工程3だけです。工程1のリストに「サイトから読み取った課題」まで入れておくと、工程3でページの文字と背景を自動で埋められます。

動画のどこをAIが差し替えるのか

差し替えるのは3か所です。名前の呼びかけは、自分の声を短く録音して覚えさせる音声クローン*が、相手の名前を自分の声で読み上げます。背景は相手のサイトを開いた画面に置き換わり、相手の社名や課題の文字は、動画を載せる専用のページに入ります。

AIのアバターに台本を読ませるツールなら、相手の課題まで台本に差し込めます。自分を撮った1本を使うか、分身に台本を読ませるかで、差し替えられる範囲が変わります。

メールには、動画そのものを埋め込みません。GmailやWindows版のOutlookはメールの中で動画を再生できないため、相手の名前などを入れた動くGIF*をメールに置き、押した先のページで動画を見せる形が勧められています。相手から見ると、自分の名前が書かれた画像が届き、押すと自分の会社のサイトを背景に話す動画が始まります。

営業メールの中の相手の名前入りの画像を押すと、相手のサイトを背景にした動画と打ち合わせの予約ボタンがある専用ページが開く流れの図

どのツールを選べばよいのか

Sendspark、RepliQ、BHumanは「1本録れば、リストの相手ごとの版をAIが作る」仕組みで、VidyardとHeyGenはAIのアバターに台本を読ませる形も選べます。違いは、日本語の音声に対応しているかと料金です。

ツール

できること

日本語

料金

Sendspark

AIが相手の名前を自分の声で読み上げ、相手のサイトを背景にした版を作る

公式の対応10言語に日本語は無い

月49ドルから

RepliQ

一覧から相手ごとのメール文、動画、画像、LPを作る

対応言語の記載なし

月39ドルから。無料で30本

BHuman

一覧の相手ごとに名前、言語、状況を合わせた動画を作る

50以上の言語。日本語の明記なし

月39ドルから。自分を撮った動画で作るのは月150ドル。無料で15本

Vidyard

録って送る動画と、AIアバターで相手ごとの動画を作る機能

AIアバターの台本は日本語に対応

無料でAI動画15本。有料は1席 月89ドルから

HeyGen

自分の分身のアバターと声の複製を作り、名前や会社名を変数にしたテンプレートから相手ごとの動画を作る

音声は日本語に対応

月29ドルから

国内のツールと、無料で試す順番は4章で扱います。

*音声クローン:自分の声を短く録音してAIに覚えさせ、任意の文を自分の声で読み上げさせる仕組み。 *GIF:短い動きを繰り返す画像の形式。メールの中でも動くため、動画の入口の画像に使う。

日本の営業で使うときの条件|メールの法律・顔と声の同意・日本語と費用

海外の仕組みをそのまま日本で使う前に、確かめる条件が3つあります。営業メールの法律、自分の顔と声をAIで複製するときの同意、日本語の音声と費用です。

営業メールに動画のリンクを載せるとき、法律で何を守るのか

会社が営業のために送るメールは、特定電子メール法*で、原則として前もって受け取りに同意した相手にしか送れません。動画のリンクを入れた営業メールも同じ扱いです。同意が無くても送れる相手は、取引のある相手、名刺など書面でアドレスを受け取った相手、自社のサイトなどでアドレスを公表している会社に限られます。

公表されたアドレスでも、そのそばに「営業のメールはお断りします」のような文言があれば送れません。送るメールには、送り主の会社名、配信停止を受け付けるメールアドレスかURLと停止できる旨、会社の住所、問い合わせ先を入れます。配信停止を求められた相手には、以後送れません。

守らないと、まず総務大臣と内閣総理大臣の措置命令の対象になります。命令に従わないと1年以下の拘禁刑か100万円以下の罰金で、会社には3,000万円以下の罰金です。

AIで自分の顔と声を複製して送ってよいのか

3章の仕組みで複製するのは声だけですが、HeyGenやVidyardのAIアバターのように、顔も複製した分身で作る道具もあります。どちらも使う前に本人の同意を文書で取り、担当者が退職したあとに声や分身を使い続けるかどうかも決めておきます。顔と声は本人の物で、会社が自由に使える素材ではありません。

分身で作った動画は最初の接触の入口に使い、商談には本人が出ます。相手のサイトを映した動画は、その相手だけが開くページに置き、ほかの相手への使い回しや一覧での公開はしません。

日本語の音声と費用はどうか

名前の読み上げを日本語でしたいなら、ツールの対応言語を先に見ます。Sendsparkの名前の読み上げは英語など10言語で、日本語は対象外です。Intercomの事例で使われたLoomの名前の読み上げも英語だけで、2026年9月30日に新規の作成が終わりました。

HeyGenは日本語の音声に対応し、自分の分身のアバターと声の複製を作り、名前や会社名を変数にしたテンプレートから相手ごとの動画を作れます。数を作るには、ZapierやHubSpotのような営業リストの道具とつないで自動で作る連携と、作る量に応じて払うAPIの料金を使います。

国内では、短い動画を作るエージェンテックのAI Shortsが2026年7月9日に、表のファイルの一括登録で相手ごとに字幕とナレーションを差し替える機能を加えました。料金は問い合わせで案内されます。

費用は、海外のツールがどれも月29〜89ドルで始められます。無料で試せる枠は、RepliQの30本、VidyardのAI動画15本、BHumanの15本、HeyGenの分身1体です。5章で動画を送る10社分は無料枠で作り、続けると決めてから1つに絞ると無駄がありません。

*特定電子メール法:広告や宣伝のメールの送り方を定めた法律。同意のない送信を禁じ、送信者の表示と配信停止の受け付けを義務づける。

まず20社で試す手順|通常のメールと動画付きメールを比べる

海外の数字を信じるより、自社の数字を出す方が早いです。見込み客20社を同じ条件で2つに分け、片方に通常のメール、片方に同じ文面と動画を送り、返信と商談化を比べます。

誰に送るのか

4-1の条件を満たす相手の中から、業種、会社の規模、送る相手の役職をそろえた見込み客を20社選び、10社ずつ2つの群に分けます。送る人、曜日、時刻も同じにします。違いを動画の有無だけにしないと、返信の差が動画のせいかどうかが分からなくなります。

片方の群には今までどおりの文面を送ります。もう片方には同じ文面に、相手の名前入りの画像と動画のリンクを足します。動画は3章の工程で作り、2章の3つの要素を入れます。

何を測るのか

測るのは、開封ではなく「肯定的な返信」と「商談になった数」です。開封は画像の読み込みで数えるため、相手の設定で増減します。断りの返信は肯定に数えません。

10社ずつでは、1件の差が10%の差に見えます。2〜3か月続けて片方50社まで増やし、月ごとに表に残してから判断します。かけた時間と費用に対して何が返ったかを1つの表で見る方法は、生成AIの費用対効果を測る4つの問いの記事にまとめています。

項目

群A(通常)

群B(動画付き)

相手

同じ業種、規模、役職の10社

同じ条件の10社

送る物

今までの文面

同じ文面に、名前入りの画像と動画のリンクを足す

送り方

同じ人、曜日、時刻

同じ

測る物

肯定的な返信の数、商談の数

同じ

期間

2〜3か月で各50社まで

同じ

動画の中身をどう作るのか

新規の取引先への営業メールに付ける動画は、相手のサイトを背景にした30〜60秒の構成です。最初の5秒で相手の名前を呼び、背景に映した相手のページを見せます。次に「御社の◯◯なら、こうできます」と提案を1つだけ言い、最後に15分の打ち合わせを提案して終わります。

相手のサイトを読んで課題と提案の要点を出す作業は、AIに任せると1社数分で済みます。リストの各社について「サイトから読み取れる課題を3つと、提案を1つ」と頼み、営業担当が選んで台本の空欄に入れます。

さいごに

本記事では、営業メールに相手ごとの動画を入れるパーソナライズ動画について、海外5社の数字、AIで1本の動画を相手ごとに変える4つの工程、日本で使う前に確かめる3つの条件、20社で試す手順を解説しました。効いているのは動画そのものより、相手の会社の画面を映して「この会社のために作った」と分かる形にした点だと、スマートエイトは見ています。

「営業メールの返信が来ない」「文面を変えても手応えが無い」という会社は、まず相手のサイトから課題が読める20社を選び、10社ずつに分けて動画付きのメールと通常のメールを比べる所から始められます。撮るのは1本で、相手ごとの差し替えと調べ物はAIに任せられます。

スマートエイトの生成AI研修では、受講者が自分の業務をAIに任せる手順を作ります。営業なら、見込み客の調べ物、提案文、動画の台本を会社ごとに作る所までを扱います。

※生成AI研修資料/導入事例も無料ダウンロードいただけます。