はじめに

ChatGPTを仕事で使い始めたものの、取引先の名前や社内の数字をどこまで入れてよいのか、迷ったまま使っていないでしょうか。会社のルールが決まる前に、社員が無料版や個人の契約で使い始めている会社は珍しくありません。

本記事では、ChatGPTの情報漏洩を防ぐ設定と、会社として入れてよい情報の線を引く手順を解説します。スマートエイトがChatGPTに触れた商談と研修の逐語65回分を見返すと、契約の形は会社ごとにばらばらで、同じ迷いが複数の会社から出ていました。

情報漏洩を防ぐ設定は、本人が自分の画面で行うものと、会社の契約で管理者が決めるものの2つに分かれます。線は情報の種類より先に「どのアカウントで開いたか」で引くと、現場が迷わずに済みます。

本記事は2026年10月18日時点のOpenAIの公式情報をもとにしています。プランは、個人向けのFree・Go・Plus・Proと、会社向けのBusiness・Enterprise・Eduに分けて書きます。

ChatGPTの情報漏洩はどこから起きるか|学習の前に、個人のアカウントへの入力

ChatGPTの情報漏洩と聞くと、入れた内容がAIに学習され、他人の回答に出てくる場面を思い浮かべがちです。会社の実務で先に手当てが要るのは、会社が管理できないアカウントに業務の情報が入る経路です。

ChatGPTで情報が会社の外に出る2つの経路の図。学習に使われる経路と、会社が管理できない個人のアカウントに会話が残る経路を並べ、どちらも入り口はどのアカウントで開いたかで決まることを示している

「学習される」と「漏れる」は別の問題です

個人向けのプランでは、設定を変えない限り、会話がモデルの改善に使われることがあります。会社向けのBusiness・Enterprise・Eduでは、入力と出力は既定で学習に使われません。

学習をオフにしても、会話そのものは本人のアカウントに残ります。個人のアカウントは社員本人が管理する物で、会社が管理する範囲の外にあります。中身を確かめるのも消すのも、本人の操作に頼ることになります。

つまり、情報漏洩を防ぐには、学習の設定と、会話がどのアカウントに残るかの2つを分けて考える必要があります。設定の話だけをしていると、後者が抜け落ちます。

ChatGPTの情報漏洩事例は、個人向けの入力から起きている

広く知られた情報漏洩事例は、2023年のSamsungです。社内でChatGPTの利用を認めた直後に、社員がソースコードなどの機密を入力した件が続き、同社は生成AIの社内利用を制限しました。

スマートエイトは2026年8月に、生成AIに入れてよい情報の線引きを、ベンダーの公式文書や規制当局の公表から調べました。公開されていた事故は、個人向けのアカウントへの入力か、社内の共有設定の広さから起きていました。学習が原因とされた事故は、その中にありませんでした。

だから手を付ける順番は、学習の設定より先に、業務でどのアカウントを使わせるかを決めることです。次の章では、その決め方が後回しになっていた会社の実例を紹介します。

商談で複数社から出た迷い|無料版と個人の契約が先に広がる

スマートエイトがChatGPTに触れた商談と研修の逐語65回分を見返すと、全社で正式に配っている会社より、一部の人だけが使っている会社のほうが多くありました。ここでは、情報の扱いに関わる記録を、社名を伏せて紹介します。

ChatGPTの線引きが後追いになる3段の図。個人の契約や無料版で使い始める、どこまで入れてよいか分からなくなる、ルールを作っても守られているか確かめられない、の順に進むことを示している

会社ごとにばらばらだったChatGPTの契約

有料のChatGPTを使っているのは社長と幹部だけ、社長が自分だけで試している、法人の契約は数名だけ、という会社がありました。チームごとに4つのアカウントを持つ会社、個人の契約が先に広がっている会社、無料版のまま使っている会社もありました。

全社で正式に配っているAIはCopilotやGeminiで、ChatGPTではないという会社もありました。この場合でも、ChatGPTを個人で使う社員がいれば、会社の線の外で業務の情報が扱われます。

「会社の情報をどこまで入れてよいか分からない」

求人広告・人材の会社Aでは、ChatGPTを無料版で使っていて、会社の情報をどこまで入れてよいか分からないという相談がありました。求人広告・人材の業界との別の打合せでは、社員が個人で有料の契約をしている可能性があり、個人では使わないルールを整えたいという話でした。

製造業Bの情報システム課からは、個人の契約で使う人が先に増え、全社に広げるかを検討している最中だと聞きました。無料版のアカウントを自分で作った人が多かったため、学習の設定を社内に周知したそうです。

福祉事業の会社Cでは、チャット型のAIのルールはできてきたものの、守られているかを社内で確かめる手が届いていませんでした。ルールを作った後の確認が、次の課題として残っていました。

講師がその場で答えた線

「無料版を使ってもらっているが、有料のアカウントを用意すべきか」と聞かれたとき、講師は「無料なら会社の情報は一切入れない」と社内に周知するよう答えました。研修の当日にも、個人の契約では学習の設定を自分でオフにすることと、個人のアカウントに会社の情報を入れると学習される恐れがあることを伝えています。

どの会社にも共通していたのは、ルールより先に使う人が増え、線が後追いになっていた点です。次の章の設定は、この順番で進んでしまった会社を前提に組んでいます。

ChatGPTで情報漏洩しない設定|本人の画面と会社の契約で分ける

設定は、社員が自分の画面で行うものと、会社の契約で管理者が決めるものに分かれます。個人のプランには管理者がいないため、本人の設定がそのまま最後の守りになります。

ChatGPTの設定の分担の図。個人のプランでは本人が学習の設定・一時チャット・メモリの見直しを行い、会社の契約では管理者が使える人と機能を決め、学習は既定で使われないことを2列で示している

個人のプランで本人が行う3つの設定

1つ目は学習の設定です。設定の「データ管理」にある「すべての人のためにモデルを改善する」をオフにすると、以後の会話はモデルの改善に使われません。

2つ目は*一時チャットです。一時チャットの会話は、保存しない限り履歴に残らず、新しいメモリも作られず、モデルの改善にも使われません。下書きの壁打ちのように、記録を残す必要がない相談に向いています。

3つ目はメモリの見直しです。ChatGPTが会話から覚えた内容に、取引先の名前や担当者の名前が残っていないかを、月に1回など決めた間隔で確かめます。

会社の契約で管理者が決めること

Business・Enterprise・Eduでは、入力と出力が既定で学習に使われません。社員一人ひとりが学習の設定をオフにしたかを、会社が追いかける必要がなくなります。

会社の契約に移すと、誰が使えるか、どの機能を使えるかを管理者が決められます。手順を保存して使い回す*スキルのように、会社向けの契約で使う機能もあり、使い方をチームでそろえやすくなります。

設定だけでは防げないこと

学習をオフにしても、個人のアカウントの会話は、会社が管理する範囲の外に残ります。設定はいつでも本人が元に戻せるため、「オフにしたはず」を会社の側で確かめ続けるのは難しくなります。

設定の周知だけで止めると、2-2の福祉事業の会社Cと同じく、守られているかが分からない状態に戻ります。設定とあわせて、業務の情報をどのアカウントに入れてよいかを決めるのが、次の章の線引きです。

*一時チャット:履歴に残さずに使う会話の形。今のメモリを使うかは始める前に選べ、新しいメモリは作らないため、記録を残さない相談に使う。 *スキル:ChatGPTに手順を保存して使い回す機能。対象は会社向けの契約で、チームで同じやり方をそろえるときに使う。

ChatGPTに個人情報はどこまで入れてよいか|アカウントの種類で線を引く

「個人情報はどこまで入れてよいか」を情報の種類だけで決めようとすると、部署ごとに答えが割れます。先にアカウントの種類で大きく分け、その中で情報の種類を決めると、線が1枚に収まります。

アカウントの種類

学習の既定

設定を管理する人

業務の情報の扱いの例

個人の無料版(Free)

使われることがある

本人

会社の情報は入れない

個人の有料版(Go・Plus・Pro)

使われることがある

本人

会社の情報は入れない

会社の契約(Business・Enterprise・Edu)

既定で使われない

管理者

社内の情報管理の区分に沿って入れる

有料でも、個人の契約は個人の物です

Go・Plus・Proに課金しても、学習の既定とアカウントの持ち主は無料版と変わりません。社員が自分の財布で有料にしていると、会社は使い方を知らないまま、業務の情報が個人の契約に入っていきます。

線は、有料か無料かではなく、会社が管理している契約かどうかで分けます。2-3で講師が無料版について答えた「会社の情報は一切入れない」は、個人の有料版にもそのまま当てはめます。

会社の契約の中で、情報の種類を分ける

会社の契約に移した後は、社内の情報管理の規程にある区分をそのまま使います。AI用に新しい分類を作ると、現場は2つの分類を突き合わせられず、どちらも使われなくなります。

区分の当てはめ方は、生成AI利用ガイドラインの決め方4手順で、入れてよい情報を正面から定義する形にまとめています。ChatGPTだけでなく、社内で使うほかのAIにも同じ区分を使えます。

周知は1行にし、確かめ方とセットにする

周知の文は「無料版と個人の契約には、会社の情報を入れない」の1行で足ります。あわせて、研修の冒頭や部署の会議で、どのアカウントで使っているかを本人に聞きます。

製造業Bの情報システム課が学習の設定を周知できたのは、先に無料版のアカウントを作った人が多いと分かっていたからです。会社の契約に切り替える費用が見合うかは、生成AIの費用対効果を測る4つの問いで確かめられます。

よくある質問|ChatGPTの個人情報と情報漏洩について

学習をオフにすれば、会社の情報を入れてもよいですか?

おすすめしません。オフにしても会話は本人のアカウントに残り、会社が管理する範囲の外に置かれるからです。業務の情報を入れてよいのは、会社が契約して管理しているアカウントに限るのが安全です。

一時チャットなら、個人の契約でも業務に使ってよいですか?

一時チャットは履歴に残らず学習にも使われませんが、個人の契約であることは変わりません。会社の線は、一時チャットかどうかではなく、アカウントの種類で引いてください。

社員が個人の契約で使っているかは、どう確かめればよいですか?

本人に聞くのがいちばん確実です。研修や会議の冒頭で、使っているアカウントの種類を挙げてもらうと、会社の契約が要る人数と、周知が要る人が同時に分かります。

すでに会社の情報を入れてしまった場合はどうすればよいですか?

会話とメモリは別々に消す必要があります。経路ごとの消し方と消える範囲は、ChatGPTに入れた個人情報の消し方で解説しています。

さいごに

本記事では、ChatGPTの情報漏洩を防ぐ設定を、本人の画面で行うものと会社の契約で決めるものに分けて解説しました。事故の多くは学習より先に、会社が管理できない個人のアカウントへの入力から起きています。

社員が無料版や個人の契約で先に使い始めている会社では、まず「どのアカウントで使っているか」を聞くところから始めてください。そのうえで、会社の契約を用意するか、個人の契約には会社の情報を入れないかを、1行で周知します。

スマートエイトの生成AI研修では、ツールの比較とセキュリティを扱い、自社で入れてよい情報の線を受講者と一緒に決めています。

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