はじめに

物件資料を探して、数字を転記して、提案資料を作る。案件のたびに、同じ作業をくり返していないでしょうか。生成AIが便利だと聞いても、不動産の仕事のどこに使い、どこまで任せてよいのかは見えにくいものです。

本記事では、収益物件の売買仲介を行う不動産会社のAI活用を、仕入れから売主への報告までの20の業務に分けて解説します。業務ごとに、AIに任せられることと人が残す仕事を書き分けました。

AIに任せやすいのは、定型で間違いの影響が小さい書類と、資料を集めて並べる作業です。判断を含む書類もAIで下地までは作れますが、価格は担当者が決め、契約書は弁護士が、税の説明は税理士が最後に確かめます。

不動産会社のAI活用の全体像|20の業務と進め方の手順

不動産の仲介業務でAIが役に立つのは、文章を考える場面より、資料を読む・集める・書き写す場面です。

収益物件の売買仲介の流れを仕入れと調査、査定と販売資料、集客と顧客対応、契約書類、売主への報告の5段に分け、段ごとにAIに任せる作業と人が残す作業を上下に並べた図

書類を読み、ブラウザを動かすAIと進め方

ここで想定するのは、パソコンの中のファイルを読み書きし、ブラウザとつなげば画面の操作まで受け持つ*Claude Codeのような道具です。案件のフォルダを丸ごと渡して「この資料から契約書を作って」と頼めます。業務の自動化への使い方はClaude Codeで業務を自動化する方法で詳しく書いています。

どの業務でも、次の5つの手順で進めると形にしやすくなります。

  • 案件のフォルダを丸ごとAIに読ませる
  • 既存のひな形を、新しい物件の資料に合わせて書き換えさせる
  • 分からない点はAIの側から聞かせ、答えながら進める
  • 仕上がりは人が確認する
  • うまくいった手順を*スキルとして保存し、2回目から速くする
不動産会社の業務をAIに任せるときの進め方の5つの手順、案件フォルダを読ませる・ひな形を書き換える・不明点はAIが聞く・人が確認する・手順を保存するを順に並べ、保存した手順で2回目から速くなる流れを示した図

ひな形を使えば、会社の書き方がそのまま残ります。分からない点をAIの側から聞かせれば、推測で欄が埋まるのを防げます。お客様の書類は、会社の決まりに従い、AIに渡してよい範囲だけを渡します。

*Claude Code:Anthropic社のAIツール。パソコン上のファイルを読み、書類を作り、ブラウザとつなげば画面の操作まで、指示に沿って作業を進める。 *スキル:AIにやらせた作業の手順を、名前を付けて保存したもの。次からは呼び出すだけで同じ手順をくり返せる。

仕入れから顧客対応までの13の業務

仲介の流れ順に、まず仕入れから顧客対応までの13の業務を並べます。

業務

AIに任せること

人が残すこと

販売資料の一覧化

様式の違う資料の項目を1つの表にする

読み違いの確認、空欄の補記

新着物件の振り分けと一覧化

新着物件を条件で振り分けて一覧にする

条件の見直し、資料での確認

公的資料の取得

ブラウザの操作、ダウンロード、名前の付け替え、保存

ログイン、取れた資料の確認

管理会社の調査

管理会社の一覧と、電話で聞くことの下書き

電話をかける

金融機関の公開情報

公開されたローン商品の条件を比較表にする

実際の条件を担当者に聞く

価格査定書

マイナス要因を拾い、価格の幅を出す

価格の最終判断

過去の資料と対応履歴の整理

資料とやり取りを探せる形にまとめる

何を残すかの決め、内容の確認

物件概要書

公的書類からの転記、稼働率の計算

間取りの入力、地図を貼る場所

掲載文・セールストーク

物件情報からたたきを作る

広告の表現の確認

問い合わせの台帳登録

問い合わせのメールから台帳の項目へ写す

登録内容の確認

物件と顧客の組み合わせ

希望条件に合う物件の候補を挙げる

紹介するかの判断

顧客ごとの紹介メール

紹介文の下書き

送る前の確認と送信

内見・申込までの進捗

案件ごとの進み具合と次の連絡の一覧

顧客への連絡、日程の決め

契約書類から売主への報告までの7つの業務

続いて、契約書類から売主への報告までです。

業務

AIに任せること

人が残すこと

媒介契約書

案件フォルダを探して各欄を埋める

記名押印して渡す前の確認

重要事項説明書・売買契約書

根拠資料から様式の欄を埋める

空欄の確認、宅建士の説明と記名

売買契約書の特約

既存の特約を新しい物件に合わせて書き換える

弁護士の確認

特約の下点検

条項ごとの問題点と直し方の注釈

弁護士への相談

契約書と登記情報の照合

所在・地番・面積・名義の食い違いを一覧にする

誤記か、資料が古いかの判断

媒介報告書

人が書き出した反響の数字から報告書を作る

数字の背景の説明、次の打ち手

海外に住む売主への説明

手取りの説明書、段取り表、翻訳

税理士の確認

最初の1本は、毎週くり返していて、AIの出した数字を人が確かめやすい書類か、資料集めから選ぶと決めやすくなります。

物件の仕入れと調査のAI活用|販売資料・公的資料・管理会社と金融機関

物件を探し、預かった物件を調べる段階では、「集めて並べる」部分をAIに任せられます。物件を選ぶ判断と、相手先への連絡は人が受け持ちます。

物件の仕入れと調査を、販売資料の一覧化と新着物件の振り分け、公的資料の取得、管理会社と金融機関の調べものの3つに分け、それぞれAIに任せる作業と人が残す作業を左右に並べた図

販売資料の一覧化と新着物件の振り分け

他社から届く販売資料は、会社ごとに様式が違います。AIにPDFを読ませれば、物件名・所在地・最寄り駅・価格などの項目を読み取り、1つの比較表にまとめさせられます。読み取れない項目は空欄で残すよう指示しておくと、推測で埋まるのを防げます。

手元に集まった新着物件の情報も、お客様や自社の条件に合うかでAIに振り分けさせ、一覧にできます。条件ごとに一覧が分かれていれば、1件ずつ見比べる手間が減ります。数字の読み違いの確認と、空欄を元の資料で埋める作業、条件の見直しは人が受け持ちます。

公的資料の取得

登記簿の内容を記した登記情報や公図を集めるには、物件ごとに公的資料のサイトで検索と保存をくり返す必要があります。物件名と所在地を渡せば、AIがブラウザを操作して資料を探し、ダウンロードし、決めた名前に付け替えて案件のフォルダに保存できます。地番が分からない物件も、地番を調べるところから任せられます。

サイトへのログインは人が済ませ、その後の操作をAIに渡します。取れた資料が指定どおりかは、最後に人が確かめます。PDFとして自動で保存できない資料は、画面までAIに出させ、保存は人が行います。

管理会社と金融機関の調べもの

空室の多い物件では、管理会社に状況を聞くところから始まります。この調べものはAIに任せ、管理会社の一覧と、電話で何を聞くかの下書きを作らせられます。

融資の見通しを立てる材料として、各金融機関が公開している投資用ローンの商品条件も、項目をそろえた比較表にまとめさせられます。電話をかけて話を聞くこと、公開されていない実際の金利や融資の姿勢を担当者に聞くことは人が受け持ちます。

査定と販売資料のAI活用|査定書・過去の資料の整理・概要書と掲載文

査定と販売資料は、読み込む資料が多い業務です。AIに資料を読ませて下地を作り、価格と表現の判断を人が残します。

査定と販売資料の業務を、価格査定書、過去の資料・社内ルール・対応履歴の整理、物件概要書と掲載文の下書きの3列に分け、AIが作る下地と人が残す判断を上下に並べた図

価格査定書

査定書は、物件資料を読み込んで数枚にまとめる作業です。査定の手順をスキルにしておけば、物件資料を渡すだけでAIが査定書の下地を組み立てます。AIには、資料から読み取れるマイナス要因を拾い出させ、融資の付きやすさを踏まえた価格の幅を示させます。

担当者が現地や役所で確かめた条件や、手で直した計算も、AIに渡せば査定書や販売資料へ反映させられます。相場を比べる資料は、自社で使ってよい成約事例から作らせます。最後に価格を決めるのは担当者です。

過去の物件資料・社内ルール・対応履歴の整理

査定や資料づくりのたびに、似た物件の資料を探し直す手間は小さくありません。過去の物件資料をAIに読ませ、所在地や種別、価格帯で探せる形にまとめておけば、似た物件を見つける手間を減らせます。

社内ルールや顧客とのやり取りの履歴も、同じように整理させられます。やり取りが担当者の頭やメールの中にしか無いと、担当者が休んだ日に案件の状況が誰にも分からなくなります。履歴をまとめておけば、ほかの人でも引き継げる状態に近づきます。何を残すかを決め、まとめた内容を確かめるのは人です。

物件概要書と掲載文の下書き

物件概要書は、公的書類を見ながら手で打ち込むことの多い書類です。案件のフォルダにある資料をAIに読ませれば、公的書類の内容を概要書の欄へ転記させられます。稼働率も、レントロールの表から計算する数式をAIに作らせられます。図面から間取りを読み取る作業と、地図を貼る場所の判断は人が受け持ちます。

物件情報を渡せば、掲載文とセールストークのたたきもAIに作らせられます。広告の表現は、誇大な表現やおとり広告にならないかを人が確かめます。「格安」「最高」のような語は、根拠の資料が無ければ使えません。

集客と顧客対応のAI活用|問い合わせの登録・紹介・内見までの進捗

問い合わせの管理と物件の紹介は、顧客の名前や希望条件を扱う業務です。AIに渡す前に、会社の決まりと、使うAIの設定を確かめます。入力した内容を学習に使わない設定になっているかは、とくに先に見ておきます。

問い合わせの台帳登録から物件と顧客の組み合わせ、内見・申込までの進捗へ進む流れの上にAIに任せる作業を、下に人が残す作業を並べた図

問い合わせの顧客台帳への登録

問い合わせのメールをAIに読ませれば、名前や連絡先、希望条件を顧客台帳の項目へ写させられます。同じ人からの問い合わせが重なっていないかも、AIに見比べさせられます。

台帳に登録した内容は、人が確認します。誤った連絡先のまま次の連絡に進まないためです。

物件と顧客の組み合わせと、顧客ごとの紹介メール

台帳の希望条件と物件の一覧をAIに渡せば、条件に合う物件の候補を顧客ごとに挙げさせられます。候補が決まれば、顧客ごとに紹介メールの下書きも作らせられます。

どの物件を誰に紹介するかは、人が決めます。紹介メールも、送る前に人が読み、送信は人が行います。

内見・申込までの進捗と連絡の見える化

紹介から内見、申込までは、案件ごとに進み具合が違います。台帳とやり取りの履歴をAIに読ませれば、案件ごとにどこまで進んだか、次に誰へ何を連絡するかの一覧を作らせられます。

担当者が自分の手帳やメールだけで進捗を追っていると、ほかの人には状況が見えません。一覧にしておけば、担当者が不在の日でも次の連絡が止まりにくくなります。顧客への連絡と日程の決めは人が行います。

契約書類のAI活用|媒介契約書・重要事項説明書・売買契約書の特約

契約書類では、根拠資料を読ませ、決まった様式やひな形に合わせて下書きを作らせるやり方が使えます。仕上げと法的な確認は人と専門家が受け持ちます。

契約書類を根拠資料とひな形から、AIが下書きを作り、登記情報と照合し、特約を下点検したうえで、宅建士の説明と記名、弁護士の確認という人と専門家の確認へ渡す流れを示した図

媒介契約書

媒介契約書は、最初にAIへ任せる書類に向いています。項目が決まっていて文字数が少なく、間違えたときの影響も契約書の中では小さいためです。

物件名を伝えれば、AIが社内の共有フォルダから該当する案件のフォルダを探し、オーナー名や仲介手数料などの欄を埋めます。仲介手数料は法律で決まった上限の計算式で入れ、案件の資料に別の取り決めがあればそちらを優先させます。下書きはAIが作り、記名押印して渡す前に、人が数字と記載を確認します。

重要事項説明書・売買契約書の下書きと特約

重要事項説明書や売買契約書も、登記情報や登記事項証明書、物件概要書などの根拠資料から、決まった様式の欄を埋めた下書きをAIに作らせられます。様式の行や列を崩さないことと、記載のない欄は空欄で残すことを指示に入れておきます。

特約は、別の物件で使った特約と新しい物件の物件概要書を渡せば、当事者の名前や日付まで書き換えさせられます。売主が国外に住んでいる条件を加えれば、買主が代金から源泉徴収して納めるための特約もAIに書き足させられます。

空欄の確認と、特約や条件の判断は人が行います。重要事項の説明と記名は宅建士が受け持ちます。

契約書と登記情報の照合と、弁護士に出す前の下点検

できた契約書の下書きと登記情報をAIに突き合わせさせれば、所在・地番・面積・名義などの食い違いを一覧にできます。食い違いが誤記なのか、根拠資料が古いのかは人が判断します。

特約は、別のスキルで読み返させることもできます。弁護士ならどこを見るか、取引に慣れていない人ならどう受け取るか、の2つの目で条項ごとに読ませ、問題になりそうな点と直し方を注釈として書かせます。この注釈は弁護士に相談する前の下点検で、最終的な特約は弁護士が確認してから使います。

売主への報告と、人が残す仕事|媒介報告書・手取りの説明・線引き

売主への定期の報告と手取りの説明も、数字を集めて文章にする部分はAIに任せられます。最後に、20の業務を通した線引きをまとめます。

媒介報告書と海外に住む売主への手取りの説明でAIに任せる作業と人が残す作業を示し、下段に20の業務を通した任せる所と人が残す所の線引きを左右に並べた図

媒介報告書

媒介報告書は、売主に販売の状況を伝える書類です。専任媒介なら2週間に1回以上、専属専任媒介なら1週間に1回以上の報告が宅建業法で決まっています。掲載先の管理画面から人が書き出した閲覧数や問い合わせ数のファイルをAIに渡せば、物件ごとの報告書にまとめさせられます。

数字の背景の説明と、売主への伝え方、次の販売の打ち手は人が考えます。

海外に住む売主への手取りの説明

海外に住む売主から預かった賃料や取得時の資料をAIに読ませれば、売買価格から仲介手数料、印紙税、源泉徴収を差し引いた決済時の受取額を出させられます。翌年の確定申告で源泉徴収分を精算する見込みと、手元に残る額の試算も、順を追って書かせられます。

契約から決済までの段取り表として、各時点で誰が何をするかの一覧も作らせられます。*納税管理人への確認のように、売主の側で準備が要る項目もここに並べます。説明書と段取り表は、売主の使う言語へAIで翻訳できます。

説明書には計算の根拠と、必ず専門家に相談してほしい旨を添え、あくまで「目安」であることを明記します。税理士が確認してから売主に渡します。

任せる所と人が残す所の線引き

AIに下書きを任せ、人は渡す前に数字を確かめるだけで済みやすいのは、定型で文字数が少なく、間違えたときの影響が小さい書類です。媒介契約書や請求書がこれにあたります。資料を集める、並べる、転記するといった作業も同じ側に入ります。

文章の量や項目が案件ごとに変わる書類は、下地をAIで作って人が仕上げます。法律や税の判断を含むものは、AIの出力を下読みとして使い、最後は弁護士や税理士が確かめます。物件を選ぶ判断、価格、顧客に何を勧めるかも人が持ちます。

任せた後の効果の測り方は、生成AIの費用対効果を測る4つの問いで整理しています。

*納税管理人:国内に住所のない人に代わって、税務署への申告や納税の手続きを行う人。海外に住む売主が国内の不動産を売って確定申告をするときは、申告の前に定めて税務署に届け出る決まりがある。

さいごに

スマートエイトのAI研修を受けた収益物件の仲介会社では、受講者が自分の業務を仕組みにし、次のような結果が出ました。時間は受講者が研修の発表で話したもので、計測した値ではありません。

業務

これまで

仕組みにした後

媒介契約書

30分

1〜2分

価格査定書

2時間

30分(手順を保存した後)

売買契約書の特約

2時間

30分

公的資料の取得

1〜2時間

30分

管理会社の調査と訪問準備

2〜3時間

1時間未満

収益物件の売買仲介でAIに任せやすいのは、資料を集めて並べる作業と、ひな形や様式に合わせて下書きを作る作業です。価格の判断、顧客に何を勧めるか、契約と税の最終確認は人が残します。

まずは、毎週くり返している書類を1つ選び、過去の案件のフォルダとひな形をAIに渡して1回やり通してみてください。手順を保存できれば、2回目からは呼び出すだけで同じ作業が進みます。

自社の業務で試したい方は、スマートエイトの生成AI研修もご覧ください。

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