はじめに

経理の仕事にもAIを使いたいと思いながら、仕訳、請求書、経費精算のどこから手を付ければよいのか分からず、止まっていないでしょうか。AIで経理が変わるという話は多く聞くのに、自社の机の上の仕事にどうつながるのかは、なかなか見えてきません。

本記事では、経理のAI入門として、最初に任せる仕事と始める順番を解説します。スマートエイトは生成AI研修と開発の商談で、経理の書類についての相談を受け、どの書類から始める会社が多いのかを数えてきました。

結論として、経理のAIは入力より、書類の作成の下書きと、入力した後のチェックから始めます。そのうえで書類を1つに絞り、件数と時間を数えてから任せると、効果が見える形で始められます。

本記事で示す相談の件数は、スマートエイトが2026年10月14日までの商談の記録から数えたものです。

経理のAI入門は入力後のチェックから|記帳の次に人の時間が残る場所

経理の仕事を入力・作成・確認の3つに分けた図。入力は記帳で会計ソフトとAI-OCRが担い、作成は請求書・支払の書類でAIが下書きを作り、確認は入力後のチェックでAIが洗い出して人が直す。作成と確認がAIに向く

経理の仕事を3つに分ける

経理の仕事をAIの目で見ると、大きく3つに分けられます。

  • 入力:領収書や請求書の中身を、会計ソフトに記帳する仕事
  • 作成:請求書や支払の一覧のように、社外や社内に出す書類を作る仕事
  • 確認:記帳した中身や作った書類に、誤りや漏れがないかを確かめる仕事

AIの話になると、多くの人は真っ先に入力を思い浮かべます。ところが、いま人の時間が多く残っているのは、作成と確認の2つです。

記帳はもう道具が担っている

スマートエイトの研修では、会計まわりの本丸を、入力ではなく入力の後のチェックと見ています。記帳は、AI-OCR*や会計ソフトの明細の取り込みで、多くの部分が片付くようになったためです。

記帳が速くなっても、取り込まれた中身が正しいかを確かめる仕事は残ります。科目が合っているか、同じ取引が二重に入っていないか、金額の桁が違っていないかを見る時間は、記帳の件数が増えるほど増えます。

AIに向くのは作成の下書きと確認

作成と確認がAIに向くのは、書類の形が会社ごとに違うからです。請求書の明細の書き方も、確認する項目も、取引先や業界によって変わります。会計ソフトのような出来合いの道具では、この会社ごとの違いを埋めきれません。

生成AIは、書類ごとの違いを指示の文で教えられます。見本の書類と確認する項目を渡せば、自社の形に合わせた下書きを作ったり、気になる行を洗い出したりできます。入門の段階では、この2つから始めるのが近道です。

*AI-OCR:紙やPDFの文字を読み取ってデータにする仕組みに、AIを組み合わせたもの。請求書や領収書の読み取りに使われる。

経理の相談で多いのは請求書づくり|商談の記録から見えた順番

スマートエイトは、商談の記録から手作業についての相談を拾い、誰の仕事か、どんな作業かで数えています。数えた範囲は250回の商談、192社で、同じ会社が何度話しても1社と数えました。

経理の書類を相談した11社

経理の書類について相談した会社は11社でした。そのうち4社は、研修か開発のご依頼につながっています。経理の書類は、相談から実際の取り組みに進みやすい題材です。

管理部門の書類の話は、最近になって増えています。2026年7月14日からの3か月では、相談の中で経理・総務・事務・請求のいずれかの話が出た会社が39社中11社で、それより前の期間より多くなりました。

書類の名前で数えると請求書づくりが最多

経理を含む管理部門の相談を書類の名前で数え直し、多かった書類を上から3つ並べると次のとおりです。業種に限られる書類(音楽・出版の印税の計算など)は除き、語の選び方で数社動くため、おおよその数です。

書類の名前

相談した会社のおおよその数

請求書づくり

9社

FAXやPDFで届く注文書を、販売管理のシステムに打ち込む

6社

勤怠の締めと給与の計算

5社

いちばん多かったのは請求書づくりです。請求書は、どの会社にもあり、毎月決まった時期に件数がまとまって発生します。取引先ごとに明細の書き方が違うことも多く、人が手で整えている会社が目立ちました。

時間を数えている会社は少ない

一方で、今どれだけ時間がかかっているかを言えた会社は多くありません。請求や支払の相談をした11社のうち、かかっている時間か件数を言えたのは3社でした。

時間が分からないと、AIに任せた後にどれだけ減ったのかも分かりません。経理でAIを始めるときは、任せる前に、その書類が月に何件あり、1件に何分かかっているかを数えておくことが、最初の手順になります。

仕訳・請求書・経費精算で最初に任せる仕事|下書きと確認から

3つの書類で最初に任せる仕事を並べた図。請求書づくりはAIが見積や受注の記録から下書きを作り、人が金額と送り先を確かめる。仕訳はAIが科目のばらつきや空欄を洗い出し、人が直すかどうかを決める。経費精算はAIが領収書を読み取り申請と突き合わせ、人が認めるかどうかを決める

請求書づくり:記録から下書きを作らせる

請求書づくりでは、見積書や受注の記録を渡し、請求書の下書きを作らせます。取引先ごとの明細の書き方や、但し書きの決まりも、指示の文に書いておけば下書きに反映されます。

人が確かめるのは、金額と送り先です。金額の合計や税の計算は、AIに数えさせず、表計算のソフトやプログラムで出すほうが確実です。

スマートエイトでは、請求書と入金の消し込み*も研修の題材にしています。AIには請求書の読み取りだけを任せ、集計と突き合わせをコードで行う手順は、Claudeで請求書の突合を自動化する方法|AIに金額を数えさせないにまとめています。

仕訳:入力後のチェックを任せる

仕訳では、記帳そのものより、記帳した後のチェックを任せます。月ごとの仕訳の一覧を書き出してAIに渡し、気になる行を洗い出させます。

  • 同じ取引先なのに、月によって科目が違う行
  • 摘要が空のまま、または「振込」のように中身が分からない行
  • いつもの取引と金額の桁が違う行

洗い出された行を直すかどうかは、人が決めます。AIの役目は、人が全部の行を目で追わなくても、見るべき行に先にたどり着けるようにすることです。

経費精算:領収書と申請を突き合わせる

経費精算では、領収書の読み取りと、申請の中身との突き合わせを任せます。申請の金額と領収書の金額が合っているか、日付や支払先が申請と食い違っていないかを、AIに一覧にさせます。

紙の領収書が多い会社は、まず写真やスキャンで読み取れる形にするところから始めます。紙の書類をAIに渡す前に確かめておく条件は、ChatGPTの書類スキャンの使い方|紙の業務をAIに渡す前の3つの条件で扱っています。精算を認めるかどうかは、これまでどおり人が決めます。

*消し込み:届いた入金を、出した請求書と1件ずつ結びつけ、入金済みにしていく作業。

経理でAIを使い始める手順|1つの書類で試し、人が止める場所を決める

経理でAIを使い始める3つの手順を並べた図。書類を1つ選び件数と時間を数える、AIに渡す範囲と人が止める場所を決める、1か月回して次の書類へ広げるの順に進む

書類を1つ選び、件数と時間を数える

最初の手順は、書類を1つに絞ることです。請求書づくりのように、毎月決まって発生し、件数がまとまっている書類が向いています。

選んだら、1か月の件数と、1件にかかる時間を数えます。たとえば請求書が月に何十件あり、1件の作成と確認に何分かかっているかが分かれば、AIに任せた後に減った時間を比べられます。浮いた時間を費用と並べて判断する考え方は、生成AIの費用対効果を測る4つの問い|OpenAI CFOの採点表の使い方が参考になります。

AIに渡す範囲と、人が止める場所を決める

次に、AIに渡す情報の範囲と、人が止める場所を決めます。渡す範囲は、その書類を作るのに要る記録だけにし、会社の契約で使えるAIのツールの中で扱います。

人が止める場所は、外に出る手前と、お金が動く手前に置きます。請求書なら送付の前、支払なら振込の前、会計ソフトなら登録の前です。AIが作るのは下書きと確認の一覧までにしておくと、誤りがあっても外に出る前に止められます。

1か月回してから、次の書類へ広げる

決めた形で1か月回し、最初に数えた件数と時間と比べます。どこで手直しが多かったかを見て、指示の文を直してから、次の書類へ広げます。

次の書類は、同じ担当者が持っている書類から選ぶと進めやすくなります。請求書づくりで決めた止める場所や指示の書き方を、そのまま使い回せるためです。

よくある質問|会計ソフトとの関係・計算・情報の扱い・税理士

会計ソフトにAIの機能があれば、生成AIは要りませんか?

役割が違うため、使い分けます。会計ソフトのAIの機能は、記帳と集計を速くするのが得意です。生成AIは、会社ごとに形が違う書類の下書きや、記帳した後のチェックの段取りを指示の文で教えられます。両方を組み合わせると、入力から確認までの手間が減ります。

経理の数字の計算を、AIに任せても大丈夫ですか?

合計や税の計算は、表計算のソフトやプログラムに任せます。生成AIは文章を読んで判断するのが得意な一方、数を数える作業では取りこぼしが出ることがあります。AIには、どの行を足すか、どの行が気になるかの判断を任せ、計算そのものは道具で出す、という分け方が確実です。

経理の情報をAIに入れてもよいですか?

会社として契約したAIのツールで、入力が学習に使われない設定になっているものを使います。社員が個人で契約したアカウントや無料のアカウントには、取引先の名前や金額を入れません。どのツールなら入れてよいかは、経理の担当者が決めるのではなく、会社の決まりとして先に決めておきます。

税理士に頼んでいる会社でも、AIは役に立ちますか?

役に立ちます。税理士に渡す前の資料の整理や、記帳した中身のチェックをAIで済ませておくと、税理士とのやり取りの往復が減ります。判断に迷う行を一覧にして渡せば、確認してもらう点もはっきりします。

さいごに

本記事では、経理のAI入門として、仕訳・請求書・経費精算で最初に任せる仕事と始める順番を解説しました。経理のAIは入力より、書類の作成の下書きと、入力した後のチェックから始めます。相談の多い請求書づくりのように、毎月まとまって発生する書類が入口に向いています。

まずは書類を1つ選び、月の件数と1件の時間を数えるところから始めてください。そのうえで、送付や振込の手前に人が止まる場所を決めれば、安心してAIに任せられます。スマートエイトの生成AI研修では、自社の書類を題材に、AIに任せる手順を社員が自分で組み立てる演習を行っています。

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